専業主婦のヘソクリに相続税はかかるか?

    相続税が所得税や法人税と比べて明らかに違う点の1つに、『税務調査に入られる確率が圧倒的に高い』ということがあります。相続税を申告した人の実に3割が税務調査に入られています。

そして、その調査の最大のターゲットは『名義預金』です。名義預金とは、『亡くなった人の家族の名義だが、実質的には亡くなった人のものである預金』のことです。

たとえば、ご主人が亡くなった時に、専業主婦の奥様名義の預金が2000万円ありました。このお金は長年の夫婦生活の中で夫から任されていた、家計費の一部をコツコツ貯めていたものとします。

現在の税務調査の現場では、「奥さんや娘さん名義の預金は実際は亡くなったご主人の名義預金ですから、奥様の名義預金も相続財産として、相続税を支払ってください。」と指摘されてしまうケースがかなり多いのです。

では、「いいえ、これは私自身の預金です!」と奥さんや娘さんが反論するためにはどうしたらいいのでしょうか?

それは、奥さんや娘さんがその額の預金を持っていることの正当性を証明するしかありません。

つまり、

自分で稼いだ

(奥さんの場合なら)自分の親から相続した

亡くなったご主人から生前に贈与を受けた のどれかを証明できればいいのです。

「自分で稼いだ」「自分の親から相続した」という場合の証明は比較的容易かもしれませんが、「亡くなった人から生前に贈与を受けた」と証明することは思った以上に大変です。

何故これほど名義預金が問題になるかというと、名義預金については「普通の人の考え方」と「民法上・税務上の考え方」に大きな違いがあるからです。

ご主人が働いていて奥さんが専業主婦であれば、『夫婦の財布は1つ』と考えるのが私達のごく普通の感覚だと思います。しかし、民法は『夫婦別財産制』をうたっています。つまり、『婚姻中に夫の名前で取得した財産は夫のもの、妻の名前で取得した財産は妻のもの、どちらが取得したかはっきりしない財産については2人のものである』といっているのです(民法762条)。

稼ぎのない者には財産は作れない、という考え方です。従って、夫が稼いできた財産はいつまで経っても夫のものにしか為り得ないわけです。

 

ところが、この夫の財産が妻のものになるケースが3つだけあります。

1つは生前離婚による財産分与です。通常は、夫名義の財産の1/2程度は妻のものと認められ、無税で妻に財産分与が許されています。

2つめは相続です。妻は最低でも1/2の法定相続分を有し、それ以内の遺産取得であれば相続税もかかりません。

そして3つめが生前の贈与です。この3つ以外に夫から妻へ財産が勝手に移るということは、民法上も税務上も認めていないのです。

 

専業主婦の妻が夫の給料をやり繰りして毎月数万円をコツコツと妻名義で積立てていた・・・。このような例は世の中に数え切れないくらいあります。

この妻名義の預金(=ヘソクリ)は果たして妻のものでしょうか?言い換えれば、生活費の残りについて夫から妻へ贈与があったと言えるのでしょうか?

 

答えはNoです。

 

贈与とは民法上の諾成契約です。「あげます」「もらいます」という双方の意思表示さえあれば成立します。もちろん、もらった方が自由に自分の意思だけでそれを使えるようになっていなければ、もらったことにはなりません。

ところが、上記のようなヘソクリについては、夫婦間で「あげます」「もらいます」という明確な意思表示があったとは言えないケースが大半です。

また、仮にそのような意思表示があったとしても、夫は奥さんが自由に自分のためだけに好き勝手に使うことまでを容認していたのではなく、2人の老後のため、あるいは家族の突発的な資金需要に備えて管理を任せていたと考える方が普通ですし、奥さんもそのつもりで積み立てていたはずです。

 

つまり、「贈与の意思表示がない」「貰った人が自由に自分の意思だけで好き勝手に使える状態になっていない」以上、“贈与は成立していない”ということになります。従って、夫が亡くなったときにはこの妻名義の預金は夫の名義預金と認定され、相続税の課税対象財産となるでしょう。

2018年12月25日 | カテゴリー : 未分類 | 投稿者 : souzokunet.jp